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「だとしたら……」
俺の耐性は火であり、そして適正属性もまた火であるということだ。
双方の属性はイコールで結ばれていると入門書に載っていたからな。
偶然とはいえ、最初の魔法を《小さき炎》にしたのは最適解だった。
失敗は成功の母というけど、今回はまさにその通りである。
上着は犠牲となったが、ゆくりなく自分の属性を把握できたのは大きな収穫だ。
得意な分野を正しく認識していれば、より効率的に魔法習得のプランが組める。
多少の紆余曲折はあったものの、これは好調な滑り出しと言えよう。
俄然、やる気が出てくる。
ところが、それを見計らったかのようなタイミングで馬のいななきが聞こえてきた。
反射的に荷馬車のほうへ目を向けると、ルフィナが御者台の上で暇そうにしている。
長い髪に手櫛を通しつつ、ぼんやり空を観察している彼女の横顔を遠目に眺め――
「あっ」
そこで俺はハッとした。
魔法の練習に夢中で完全に時間を忘れていた。
もう、結構ルフィナを待たせてしまっている。
いくら了承を得てるにしても、これ以上はさすがに失礼だろう。
そろそろ切り上げ時だ。まだまだ満足してはいないが仕方ない。
俺は小走りでルフィナのもとに向かう。
「師匠、待たせたな」
「もういいのか? それなら早く着替えてこい」
「えっ? 着替え?」
「その黒焦げた服のままではいられないだろ?」
「あー……それもそうだな」
と、そんなやりとりをして。
俺が荷台にあった別の衣服に着替えたあと。
ようやく休憩を終わらせて荷馬車が出発した。
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