第三話 『闇の中に浮かぶ赤い瞳』

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 バグウェル領を抜けて隣のボイル領に入った。  現在の時刻は、体感で昼過ぎくらいだろうか。  俺は御者台の上で、昼食代わりに干し肉をちまちまと(かじ)っていた。  しかし空腹を満たすにはいささか量が少ないため、時折、水筒に口をつけて腹の空きを水分で誤魔化している。  ちなみに、この干し肉と水筒は荷台でたまたま見つけたものだ。  侯爵家の人間がわざと飲食物を入れ忘れ、俺を干乾びさせる作戦はなかったらしい。  よかった、よかった……。  ちょっと分かりづらいところに置かれていたけど、本気で殺しにかかった嫌がらせじゃなくてよかったぁ……。  と、そんな悲しい喜びに浸っていたところで。 「…………むっ?」  すでに自前の干し肉を食べ終えて、荷馬車の運転に集中していたルフィナが、不意に怪訝そうな声を漏らした。  なにかあったのかと思い、彼女の視線を追ってみると、前方に謎の集団がたむろして俺たちの進路を塞いでいた。  それは六人の男たちで、しかもその全員が剣や槍などを持って武装している……のだが、彼らは談笑しながらゆったりと佇んでおり、物騒な見た目に反して剣呑な空気は感じられなかった。 「すみませーん! そこの(かた)、ちょっと止まっていただけますかー?」  こちらの存在に気づいた男たちのひとりが、ぶんぶんと大きく手を振りながら停車を求めてきた。  なので、ルフィナは少し面倒そうにしつつも手綱を引き絞って荷馬車を止めた。  それを見て、手を振っていた若い男がせっせと走り寄ってくる。  なんとなく人当たりの良さそうな顔をした二十歳前後の青年だ。  そんな彼の姿を、俺は緊張した面持ちでじっと睨んだ。  こいつらはなんだ? なんのために俺たちを停車させた?  もしかしたら俺……いや、レイのことを知っているのかもしれない。  だとしたら、やはり嫌悪しているだろうか? 憎んでいるだろうか?  有名なクソガキらしいから、噂くらいは耳にしていてもおかしくない。  そうなると……けっこう怖いな。うん、胃が痛くなる。  レイという殻を通して、俺に向くかもしれない悪感情。  それを想像するだけで、全身から嫌な汗が出てしまう。  しかし、  名前 :マイケル・リントン  性別 :男  種族 :人間  突然、視界に空中文字が現れて俺は我に返った。
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