平安京の月

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結局、彼は私を連れて自分の時代に戻ると約束してくれた。 彼は帰るための支度を始める。 私に着物を着せると焚き火を消し藁を川に流した。 「何でそんな事するの?」 「俺は一年に五日しかこの世に留まれない。 この時代に戻って来てもここには一年間は来る事がないからな」 「その間はどうしてるの? 貴方の時代に帰るの?」 「いや、眠る・・ 氷の中で眠るんだ」 「氷の中?」 「この洞窟の奥に水晶と氷だけの場所があるんだ・・ 俺は一年に五日時空の扉を行き来して力を使い果たす。 次に動けるまでそこで眠るんだよ」 「時空を行き来して何をしてるの?」 彼は暫く黙って私を見る。 「人を殺して心の臓を取り出す」 「えっ?人を・・ 殺すの?」 「夕べお前も見たろう? あれは今の時代に逃げた奴の心臓だ」 「どうして? 人殺し何か・・ 貴方は優しい人なのに、私を助けてくれたのに」 「俺はもう人じゃない。 あの時・・ いや、いい」 「ご免なさい・・ 私が聞いて良い事じゃなかったわね」 私ったら何をしてるの・・ こんな事聞いてどうするのよ。 私は彼の事何にも知らないじゃない・・ そうよ、名前さえ知らない。 「支度が済んだぞ。 行くか・・」 「あの・・貴方の名前聞いてもいい?」 「俺か? 聞いてどうする? 明日戻ったらもう一年は会えないんだぞ」 「それでも・・ それだから聞きたいの。 だって一年待ったらまた会え・・るでしょ?」 「待ってくれるのか? 俺を・・」 (私、何を言ってるの? 待つだなんて、一年も・・) 「俺は我聶丸。お前は?」 「私は・・ 夕夏・・ 夕暮れの夕に夏と書いて夕夏と読みます」 「夕夏か・・ 綺麗な名だ」 彼に名前を誉められ嬉しくなる。
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