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久しぶりに婆様と枕を並べる。
幼い頃は母様と川の字で眠ったものだ。
「なあ婆様、あの隣の里から来ていた女の子、あれから遊びに来たかな?
俺は屋敷に戻ってからは父上について学問や剣術の練習に明け暮れたから、なかなか里にも来られなかった。
それに元服して直ぐに家を継いだから父上のお役も引き継ぐ形になってな。
何せ実績もなく大役に着いたものだから周りからは厳しいい目で見られる事の方が多くて・・
まあ、今じゃそんな事も笑い話になった。
だからかな、あの子が今どうしているのかと時折思うんだ」
返事をしない婆様を見る。
病み上がりのせいかもう眠っている。
床から起き上がり月を眺める。
二月だというのに今年は雪も少ない。
(寝付けない・・
酒でも飲むか?)
そう思って台所に来たが、女中達はもう自室にさがったようで誰もいない。
(仕方ない。
散歩でもするか・・)
そう思いなおして外に出た。
月明かりが白い雪に反射してとても美しい。
母様とよく散策した原っぱ迄歩いた。
春には一面の花畑となるその場所も今はひっそりと白一色の世界だ。
ふと見ると誰かが雪の中にうずくまっている。
どうやら足を痛めたらしい。
「もし、足を挫かれたのか?
良ければ俺の肩を・・」
俺の言葉に顔を上げたのはあの綾姫だった。
「姫、こんな所で供も連れずにどうしたのですか」
俺は慌てて側に駆け寄っていた。
「あっ・・
東雲の孝之様・・
あの、足を・・」
「とにかく俺に掴まって」
俺の差し出した手に姫が掴まる。
氷のように冷たい手だ。
「いったい何時から此処に居たのです?」
「供の者は助けを呼びに・・
半時ほど此処にいました」
姫はそう答えると立ち上がろうとした。
だが足が痛むのか身体がよろける。
俺は後ろを向いて背中におぶさるようにと促した。
「でも・・」
「もう真夜中です。
誰も見る者等おりません。
それに寒くは無いのですか?
俺の背中なれば暖かいですよ」
そう言うと迷いながらも俺の肩に手を置いた。
ゆっくりと身体を俺の背中に預ける。
とにかく暖かい所に連れて行かねば・・
そう思って気が付く。
ギヤマンの小屋なら暖かいはず・・
連れの者が戻って心配しないように、側の木の枝に姫が被っていた雪避けの傘と名前、婆様の家までの行き方を書いた紙を結んだ。
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