突然の思い

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その横顔を見つめる。 その時だった。 突然熱い思いが全身を駆け巡る。 「姫、俺の妻にならぬか?」 自分で言って驚く。 姫も驚いて俺を見つめる。 「わたくしを哀れに思ってそう言うのですか?」 暫くして姫が俺にそう聞いた。 「哀れなどとんでもない。 俺の母はこの里の百姓の出でした。 飢饉で年貢が払えず東雲の屋敷に奉公にあがって父が見初めたらしい。 初めは字も読めず書くことも出来ない。 でも努力を重ねて俺がものごごろ付いた頃には誰よりも美しい字を書いた。 だから俺は、百姓の産んだ若様と言われようがそんな事等気にもしない。 それに、父は母だけを愛し妾すら持った事もない。 俺には自慢の両親なのです。 だからもし、俺が妻を貰うなら母のように優しくて賢いおなごをと思っていました。 そしてあの日、侍達の前に籠から現れた貴女を見た時、俺は多分、一目で貴女に惚れた・・ そして貴女に困った事が有れば俺に文をと言った。 あの後も貴女が気になって仕方なかった。 でも、貴女からは文すら来ない。 ずっと気になって・・ だけど貴女は三条家の姫だ。 格下の俺が貴女を尋ねるなど、そう思っていた。 でも、貴女があのやんちゃ姫なら言える。 俺ももう貴女を守る事が出きる。 この里で遊んだ頃から貴女が俺の運命のおなごだ。 だから、尼になるくらいなら俺と・・ 一生おなごは姫だけ、金にも苦労はさせません」 「本当に? わたくしを?」 俺が頷くと姫は頬を染めた。 気付くと雪が降りだしていた。 「寒くはないですか?」 そう聞くと、少しと答える。 足はまだ痛むようだ。 俺は姫を抱き上げた。 小屋を出て母屋の婆様の部屋に姫を連れていく。 「あの・・」 「しっ・・ 婆様が起きます。 病み上がりなので寝せてあげたい」 そう言って姫を俺が寝ていた寝床に寝かせた。 「貴方は?」 「俺はここで」 そう言って姫の横に身体を横たえた。 「何も掛けずとも良いのですか?」 「野営の時はこのままで眠ります。 大丈夫、貴女は少し眠りなさい。 この雪なら貴女への迎えは昼になります」 そう言って目を閉じた。 横の姫からは優しい香りがする・・ 何処かで嗅いだことのある香りだ・・ そう思いながら眠りに付いた。
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