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姫との婚約が整った後、宮中に上がると帝からも声がかけられた。
「孝之、三条家の綾姫を妻にと大層な手土産だったと聞いたぞ。
噂では唐の螺鈿の小箱やギヤマンの壺まであったそうな・・
朕も見てみたかったぞ」
「何をそのような・・
帝のお目を煩わせるものばかり、只、今の東雲家の精一杯の品にございます」
そう答えた。
しかし、噂は噂を呼ぶ。
(東雲家では倉が空になる位の贈り物を持参して、結婚の申し込みにに向かったらしい)
とか・・
(三条家の綾姫は、噂では鬼姫と聞いたがその実は天女のように美しい姫だそうだ)
とか・・
ばかばかしい・・
姫は初めから美しいく優しい。
そして何より賢いおなごだ。
そうだ。
只一人の俺の愛するおなごだ。
そう思った。
月が替わり結婚の日取りが決まった後、姫が俺の側に座る。
「孝之様、貴方に嫁ぐ為にわたくしは鬼姫と呼ばれたのでしょう。
そう呼ばれ、他の方が近付かなかったこらこそ、貴方にもう一度会う事が出来ました。
あの幼い日、わたくしは貴方に初めて本当の自分を見せた気がします」
そう言って俺をしっかりと見た。
「それならばこれからもそうなさい。
俺が好きだったあーちゃんのまま、俺に嫁いでください」
そう答えた。
姫は嬉しそうに頷く。
「でも、もう虫を投げ付けるのはおやめになって。
あの時は心臓が止まるかと思いました」
俺は驚く。
「あの時姫は俺の髪を思いきり引っ張ったではないか?
俺はてっきり姫が虫など克服されたのかと思って・・」
「いいえ、あれは驚いてつい、手が当たって掴んだだけです」
俺は思わず笑い声をあげた。
「そうか、分かりました。
二度と虫など・・
いや、一度だけ俺と虫を見に行こう」
「虫を?」
「そうだ。
夏になったらあのギヤマン小屋の近くに蛍が飛ぶんだ。
それを姫に見せたい」
「蛍が?」
「ああ、それは美しい眺めなのだ。
姫もきっと気に入る」
姫は俺をしっかりと見る。
「約束ですよ・・」
そう言って笑った。
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