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そして気付く・・
私は彼が好きになったのだと。
「夕夏、行くぞ。
俺に掴まって目を閉じろ。
俺がいいと言うまでは目を開けるな。
人間が時空の扉を通るんだ。
何があるか分からない。
でも、何があっても俺がお前を守る・・いいな・・」
私は黙って頷いた。
彼の胸に顔を寄せる。
腕を彼の腰に廻してしっかりと抱き締めた。
「目は閉じたな?」
「はい」
「行くぞ」
その瞬間耳の奥がキーンと音を発てた。
一瞬身体が火に焼かれるぼど熱くなる。
そして直ぐに身体が震えるぼど寒さを感じた。
「夕夏後少しだ。
耐えられるか?」
私はまた黙って頷いた。
と言うより、余りの急激な環境の変化に声を出せなかった。
気付くと私は彼の膝を枕に眠っていた。
気を失っていたのかも知れない。
見ると彼も壁に持たれて眠っている。
周りを見る。
広い板の間に障子さえ無い。
(ここは?
こんなの見た事がある・・
たしか時代映画のセットの・・)
「起きたか?」
「ここは?」
「俺の育った家だ・・
今はもう誰もいないが」
「何処かに引っ越したの?」
「いや、殺された」
「えっ?」
「俺はな、産まれて直ぐに捨てられたんだ。
偶々捨てられたのがこの家の主が持つ菜園でな、初めは菜園の下働きにと育てられた。
その頃、この家の主の子が次々に病で死んだ。
まだ役職も持たない貧乏公家だった主は、跡継ぎがいなければ家が潰れると妾まで囲って子供を作ろうとしたらしい。
でも今度は子を孕んだ妾まで病で死んだ。
何人も病で死人が出ると、流石に葬式の坊主も来てはくれない。
仕方なく旅の僧に葬式の経を頼んだ主にその僧が告げたそうだ。
「家を栄えたいなら拾った子を跡取りにしろ」とな。
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