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目覚めると辺りは暗くなっていた。
彼が縁側で月を眺めている。
その月は今迄に見た事も無いほど大きな月だった。
「綺麗・・
大きなお月様ね」
そう呟く。
「起きたのか・・
此方に来るか?」
「うん」
起き上がり掛けてあった小袖を見る。
さっきとは違う小袖が掛けられていた。
「これ・・」
「この時代の物だ。
明日は其を着て京見物をしよう。
四条河原には見せ物小屋が建ち並んで芝居や踊り子が見られるぞ」
「いいの?一緒に行って」
「ああ、其を見たらお前の時代に戻る。
またあの時空の扉を通ってな」
彼がくれた小袖を身に付け縁側に座った。
「飲むか?」
盃に白い液体が揺れる。
「何?」
「酒」
「飲んだ事ない」
「じゃやめろ。
この時代の酒は強い」
「うん」
彼は酒のつまみにしていた何かを小さくして私の口に入れた。
「何?少し苦い」
「聞くな・・」
「どうして?
またうさぎやヘビのお肉なの」
「違う」
「じゃ、何?」
彼は笑いながら私を覗く。
「何よ?
絶対変なものでしよ?」
「だから聞くなって言っただろ」
私が余りにオロオロするものだから彼は黙って其を私に見せた。
「何?
見ても分からない」
「八つ目鰻」
「何それ?」
「お前の時代なら薬だ」
「お薬?」
「お前が少し弱ってたから」
そう言うと私を引き寄せて膝の上に座らせた。
近くで見ると髪の色が違う。
目の色も普通の人と変わらなかった。
「どうしたのその姿」
「これか?
これは俺がまだ人だった時の姿だ」
「そうなんだ・・」
「おかしいか?」
「違うけど・・
私はいつもの方が見馴れてると言うか・・」
今の姿は綺麗過ぎてどことなく近寄り難い気がした。
片手で私を抱きながら、片手で盃を口に運ぶ。
月を眺めては、たまに私の顔を見つめた。
「ねえ、昼間の話しの続き聞いてもいい?」
「なぜだ?」
「だってそのお姫様、恋人だったんでしょ?」
彼は黙って酒を口に運ぶ。
(聞いちゃいけない事だったのかな?
でも、でも、私には聞く権利が・・あるはず。
だってあんな事、されたんだもの)
急に彼が笑い出した。
「お前、あれ位で俺の女のつもりか?」
「どうして分るの?
何も言ってないのに」
「分り易いんだよ。
お前の顔。
不服があると直ぐに口を尖らせる」
「えっそうなの?」
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