平安京の月

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「あの女はな、俺を裏切って俺の家族を皆殺しにしたんだ」 私は彼の言葉に何も言えなくなった。 「あいつの親は自分を出し抜き出世した俺の父が邪魔だったんだ。 俺が宮中の護衛に就いて間もなく公家の姫たちの歌会が宮中であってな、俺は姫達が安全に屋敷まで帰れるようにと送り届ける役を仰せ付かった。 その相手が三条家の九重姫だった。 正直その頃の俺は、女は母じゃか下働きの小娘しか見た事がなくてな・・ 綺麗に化粧をして自分に微笑んだあいつに直ぐに心を奪われたよ。 だが俺も左大臣の跡取り息子だし、あいつも三条家の姫だ。 二人だけで会うなど許されない。 だから最初は遠くから只あいつを見つめるだけだった。 だがある時あいつから俺に文が届けられた。 それにはあいつも俺が好きだと書いてあった。 俺はその言葉に舞い上がった。 何度か文を交わし、すっかりあいつの思う壷に填っていった。 半年が過ぎ、一年が過ぎた。 俺は文だけでは気が収まらなくなりだしていた。 そんな頃宮中の噂であいつが東雲の少将に嫁ぐ事が決まったと聞いた。 俺は堪らずにあいつに文を書いた。 噂は本当かと・・ 直ぐにあいつから返事がきた。 自分は望んではいない、出来れば貴方の妻にと思っていた。 だけど親には逆らえない。 せめて最後にひと目逢いたい・・ そう書かれていた。 ついては夕刻山科の古寺で待っている。 供は遠ざけ一人牛車にて。 そう締め括られていた。 俺は直ぐに山科の里に向かった。 お前の時代とは違い里への道は峠越えの険しい道だ。 馬を走らせてもお前の時代の2時間はかかる。 約束の寺に着いた頃には辺りが薄暗くなっていた。 破れた門をくぐり境内に停められた牛車を見つけ近付いた。 御簾を開けあいつの名を呼ぼうと中を見た俺は、その中の惨状に馬から転げ落ちた。 中には大量の血と引き裂かれた着物、そして首の無い女の肉片が散ばっていた。 恐怖と、自分が殺したと誤解される事を怖れ俺は屋敷へと逃げ帰った。 だが屋敷に帰るともう、三条家の姫を殺した罪で侍が屋敷を取り囲んでいた。 「おかしい、早すぎる」 そう思った時、下働きの娘が俺を見つけ護身用の秘密の通路を通り屋敷に俺を迎え入れた。
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