我聶丸

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顔がより真っ赤になった。 急に胸がドキドキと音を発てた。 「待たせた」 声がする。 「お前・・ 熱があるのか? 顔が赤いぞ。 やっぱり何か食わなきゃ駄目だ」 そう言うと卵と梨を私に差し出した。 「梨?」 「ありの実だ。 此なら食えるだろ? 九重姫も好きだった・・ 女は皆此なら食える」 渡された梨を見る。 卵は温かかった。 「産み立て?」 いや、殻がざらざらしている・・ ゆで卵だった。 「卵を買うとき小さい子どもが食ってたんだ。 聞いたら湯で煮ると言うから・・」 「茹でてくれたの?」 「卵を売ってた女に煮て貰っただけだ。 でももう買ってやれんぞ。 今の時代の金は使い果たしたからな」 私は彼をじっと見る。 人の前に出る為か最初に見たときとは印象が違う。 「はやく食え。 力が出なくちゃ治らない」 「ありがとう・・」 私は胸が熱くなる。 彼が渡してくれた梨に口を付けた。 甘い果汁が口いっぱいに拡がる。 お腹がいっぱいになったせいか眠けが差した。 「俺は仕事がある。 寝ておけよ。 なに獣は俺の臭いには近づかない・・ 安心して寝ろ」 そう言うと出かけて行く。 (獣? 臭いには近づかない? だから着物を貸してくれたの?) まだ温かい卵を握りそう思う。 少しずつ眠りに堕ちてて行った。 物音で目が覚めた。 見ると焚き火の前に彼が後ろ向きで立っていた。 その背中から血が滴る。 「どうしたの? 血が・・」 振り向いた彼の手にはまだ動いている肉の塊が握られていた。 「それ・・心臓」 「見るな! 目を閉じていろ」 でも恐ろしくて目を離せない。 彼はその塊を片手で握り潰す。 その中から虹色の玉が転がり落ちた。 玉は転がりながら私の直ぐ側で停まった。 「それに触るな! まだ邪気が取り付いてる」 彼はそれを拾うと焚き火の中に放り込む。 暫くすると玉がひとりでに宙に浮いた。 「よし、後4つか」 彼は小さな皮の袋にそれを入れる。 「今回は早く終った 次の下調べが出来るな・・」 そう言うと着物を脱ぐ。 裸になると私の寝ている藁の中に入って来た。 「な、な、なに、? 何で貴方まで入るの?」 「藁此しか無かったからな。 大丈夫だ。 それに二人の方が暖かい」 驚く私を尻目に彼はスルリと私の横に入り込んだ。
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