第15章 男はみんなこうするもの

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ほとんど八つ当たりみたいなもんだけど。案の定彼女はわけがわからない、といった表情でぽかんとするばかりだ。 「そんな…、どうなんだろ。あたしは聞いたことないな。何回か相談に乗ってもらったし、その度一緒にご飯食べたり飲みに行ったりしてるけど。常に態度がフラットっていうか、波のない人だよ」 わたしもそう思ってた。とにかくあの瞬間までは。 性欲や下心なんか全然ない人だと感じてたのに。でもそんな筈なかった。何処かでわたしは間違えたんだ。 どこで見破らなきゃいけなかったんだろう。そんな兆候、一体いつ顕れてた…? 釈然としない表情で黙り込むわたしに、鬼崎は気がかりそうに顔を覗き込んだ。 「何なの、なにか言われた?…でも、あの人捌けてて言葉とか表現はあからさまかもしれないけど。女の子に変なことをするとかは正直、聞いたことないよ。むしろあの、噂だけど。相談のあと問題が解決して上手くいった暁には是非お礼にって女の子の方から持ちかけるとかは割によくあるらしいんだけど。いつもいつも受けてもらえるとは限らないんだって。魅力的な話だけど今回はいいよ、そんな風に無理しないでね、とかやんわり断られたりするらしい」 最後微妙に早口なのは何故なのか、とかは追及するのは止めておいた。そうか、必ずしも女の子の弱みにつけ込んでいい思いをすることが目的ではないんだ。 鬼崎は気を取り直したように肩を竦めてわたしを見た。 「だから、彼に相談した子たちの中ではあの人ゲイなんじゃないか?とか、性欲が殆どないんじゃないの?って言われてる。まぁだからこそ、かなり際どい話をしても大丈夫って安心感にも繋がってるわけだけど…。そんなとこも人気の元なんじゃないかな。だから、何言われたのか知らないけどそんなに気にすることないんじゃない。多分ちょっと、からかってみただけなんだよ。ひまがあんまりにも初心っぽく見えるから」 わたしは無表情に肩を窄めた。なにか言葉で言われただけならわたしだってこんな風に拘りはしないけど。 思い出すと頭から血が引くような、耳が燃えるような複雑な反応が身体に表れる。何となくだけど、鬼崎の知る範囲の女の子たちも皆あんな風なフィジカルな『指導』は受けてないんじゃないかな。やっぱりあれは最初から確信犯的な悪戯だったのか。追い詰められた場面で彼を信じるより他なく、心理的に混乱してた。そこにつけ込む目的だったのかな。
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