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その日、骨董品店『蔵』には、清貴一人であり、いつものように音楽を流しているのだが、柱時計の秒針の音が響いて聞こえるほどに静かだった。
清貴はカウンターで大学に提出するレポートを纏めるのに集中し、ふぅ、と息をついた時、
「郵便です」
カランというドアベルと共に配達人が店内に訪れて、カウンターの上に郵便物の束を置いていく。
「ありがとうございます」
清貴は、にこり、と笑みを返して、その束を手にする。
ほとんどがDMに、オーナー宛の招待状等だ。
その中にひとつだけ、自分宛の封書があった。
文字は印刷されたもので、宛名を確認して眉を顰める。
下の名だけであり、その名は、
――克実。
いわずもがな、葵が以前付き合っていた男の名だ。
消印は埼玉県大宮であり、本人で間違いなさそうだ。
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