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いつもだったら見て見ぬふりをするのに、酔いのせいか、テンションの高さを保ったまま俺は彼女に近付いた。
「こんな夜中にどうしたんですか?」
そんな言葉が飛び出した。俺だって大した用事もなく夜中に出歩いてるというのに。
こんな時間に一人でいたら危ないですよ。言おうとして、ハッと言葉を飲み込んだ。
女性の目には大粒の涙が浮かんでいた。ショートヘアがよく似合う。小さな顔。
一瞬遅れてこっちに気付いた彼女は、凛とした眼差しで立ちつくす俺を見つめた。年上っぽい雰囲気。だけど童顔なので年齢が分からない。とても綺麗な瞳だった。
「散歩してるんです。もう帰るのでおかまいなく」
高くもなく低くもない声のトーン。透き通った声音。今まで周りにいなかったタイプの人だ。
どうして泣いていたんだろう。とても気になった。でも、これ以上声をかけたら迷惑だ。放っておくのが彼女のため。自分に言い聞かせるように心でつぶやいた。
「……そうですか。気をつけて」
……かまわれたくない。拒否の色が彼女の顔に貼りついているのを察して、酔いも急激に覚めてしまった。ついうっかり声をかけてしまった自分が恥ずかしくなる。
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