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兄がいなくなった日の事ははっきりと覚えている。
春が来たばかりの明るい月の夜だった。
「汐里(しおり)――これ、やるよ」
ベランダのカウチに寝転んで本を読んでいた僕の上から
「何?これ――」
差し出されたのは一本の立派な孔雀の羽だった。
「綺麗だろ?嘘みたいな色だって思わないか?」
年子の兄である宇野響也(うのきょうや)は
白い頬に子供みたいなえくぼを浮かべて
「でも本物なんだよ――孔雀は生まれつきこういう色の羽を持ってんだ」
はにかむように笑って言った。
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