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四月。
春たけなわだ。
木の芽立ちの山も笑い、町の中でも桜が満開。
その様は、連なる屋根の間から薄紅(うすくれない)の雲が湧いているかのようだ。
夕暮れ時。
色褪せた木造の民家の縁側に童(わらべ)がふたり、腰掛けている。
遠く近くにたなびく薄雲が、こちらに連なる家並みからあちらの山の端(は)に至るまですべてを青く染めていた。
――ねぇ。
童のひとりが声を発した。
まとう雰囲気は、春の、うっすらと煙(けむ)る野山のようにやわらかい。
――わたしたちって、どうちがうの?
もうひとりの童が答える。
こちらは年格好の割にどこか大人びていて、色香すら漂わせている。
ふたりとも、童女(どうじょ)だった。
――おんなじものだよ。なにもちがわない。
どっちも、『うすいくもがかかったようす』をあらわすんだって。
ふたりの気配も声も、庭の桜や菜の花、足元のナズナやイヌフグリ、柔らかな緑のそれよりもずっとかすかだ。
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