かすみとおぼろ

5/8
前へ
/8ページ
次へ
エンジンの音が近付き、家の前で自動車が停止した。 向かいに住む一家が帰宅したのだ。 「今日はいいお花見日和だったなぁ」 「今日はまた、一段ともやがすごかったね。日が暮れたのに、まだけむってる」 「やだぁ。ピーエムなんとかって、大丈夫かしら」 「母さんってば、そればっか」 ひとが降車する音、荷物を運ぶ音がどやどやと続き、 それが合図であったかのように。 ふたりの姿が、青年の前から消え失せた。 ひらり、はらり、と。 人の形に切られた二枚の形代(かたしろ)が、青年の目の前で舞い落ちた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加