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弥生、三月とは、
現在のこの国の暦(こよみ)では、四月の頃だ。
鳥は啼き、色とりどりの花が咲きこぼれる野山を、そよそよと優しい風が吹いていく……そんな季節だ。
縁側に腰掛け、ひとり青年は歌っていた。
鼻歌ではあったが、その歌詞はすっかり耳に馴染んでいる。
近く遠くにたなびく薄雲は、民家の屋根も山の端(は)までも青く染め、月も星も、地上の光さえも滲ませている。
まったく、歌の詞(ことば)通りの景色だった。
そよ、と吹いた風に、
はらり、ひとひら。
また、ひとひら。
薄紅(うすくれない)の花弁が落ちる。
春の夜(よ)は、まだ浅い。
頬杖をつき手にした桜餅を眺めながら、青年は考えていた。
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