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彼の部屋にお呼ばれした私は、少々手狭な台所に立ち、腕を奮っていた。
自慢じゃないけど私、料理の腕は……。
「あ、指切った」
どちらかと言えば食べる方専門。
「えっ、大丈夫?」
心配性の彼がソファから飛んできた。
私は切った指を眺めて、ポツリと言う。
「うん、首の皮一枚」
「それアウトだから!」
私の手を掴み、ぎゅっと握ったのは止血の為か、愛故か。
そして彼の表情は「んんっ?」という声と共に、歪められる。
止血も何も、出血していない指先。切れたのは短く切り揃えた爪の先。
「間違えた、爪の先を切った」
「間違えたのはそこじゃない!」
「爪の皮一枚?」
「そもそも首の皮一枚の使い方!」
呆れ果てたような顔の後、怪我が無いなら良かったよと微笑む彼に抱きしめられた。
その体温にドキドキしながらも、ふっと力が抜ける、肩、腕、手……。
「あ」
右手に握っていた包丁が、ストーンと音を立てて床に突き立つ。
彼の、足の小指の横に、刃を向けて。
靴下にギリギリ触れるか否か。
違った意味でドキドキしながら、彼が気付かなければいいなと思い、キスしてみた。
*end*
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