黄色いタイルと私の遭遇

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 父さんの部屋は、時間が止まってるみたいだった。  あるじ不在の真っ暗な部屋に、廊下から光がひとすじ伸びている。わずかな明かりに照らされたカーテンも真っ暗だから、その向こうで雨戸が閉められているのだろう。 「それにしても暗くない?」  手さぐりで電気のスイッチを探りながら、ひとりごちる。  私が父さんの部屋に来たのは辞典を借りるため。絵本作家だった父さんの仕事部屋には大きな本棚があったから、辞典もきっとあるだろうと考えてのことだ。  でも部屋の中が真っ暗じゃ探すこともできない。だから私はスイッチを探している、けど。 「……おかしいな?」  ドアのすぐ脇にあるはずのスイッチがない。  そんな変なつくりしてるわけないよね、と首をかしげつつ、一歩踏み込んで手を壁に沿わせれば、硬いなにかに触れる。  明かりが欲しい私、躊躇なく押した。  ポチッ、と、明かりのスイッチにしてはおかしい音がした。
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