黄色いタイルと私の遭遇

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 急に、部屋そのものがものすごく眩しくなって。  驚きの声も出せないまま、反射的に両腕で目を覆って。  それから、眩しさに目をやられないよう、おそるおそる腕の隙間から部屋を見れば。 「な、な、なによ、これ!?」  目の前に広がる光景は、ほんのちょっと前とは違うものだった。  タイル張りみたいな床、つるんとした壁、電球がないのに眩しくも暗くもない天井、辞典どころか棚も机もない空間。  って、ちょっと待って。 「ドアが!」  すぐ後ろの、私がさっきまで立ってたドアが、壁になっている。  雨戸が閉まってただろう窓も、カーテンごと消えてしまっている。  あらゆる入口がないということは、あらゆる出口がないということでもあって。 「待って、待って、待って」  私の心を落ち着かせるためだけに、簡単な言葉を繰り返す。  こんなおかしいこと、あるわけがない。迷路だって来た道を戻れば入口に辿り着けるのに、三歩も戻ることができない状況なんてあるわけがない。  ならばこれはなんだ? 「夢か」  なんとなく呟いた一言が心にすうっと染みた。  父さんの部屋を開けたことが、いや、父さんの部屋に行けば辞典があるとか考えたところから夢だったとしたら、納得できたから。 「そうだ、夢だよ! 閉じ込められる理由なんかないもの!」  あははと大きく笑ってみた、そのとき。 「ともあき?」  小さな声が聞こえて、思わず息を飲んだ。  おそるおそる声のほうを向くと、床のタイルっぽいものが一枚ぺりっとめくれ、そして、立ち上がった……としか形容できない動きをした。  黄色い四角に手足のような棒がついたそれが、右手のような位置についている棒を振り上げる。 「ともあき! おかえり! まってた!」  父さんの名前を呼ぶタイルとか、夢でも受け入れられない。  この夢から逃げ出したい一心で、私、渾身の力で……頭を壁に叩きつけた。
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