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「……あ、そうだ。速水さん、少し聞きたいことがあるんだけれど……」
プリントを仕舞った担任が、やや声をひそめて話しかけてきた。
それはあまり他人に聞かせたくない話ということを暗に示していて
私はまた信頼を得るチャンスだと、ちょっとワクワクした。
…それに、実は少し話の内容の見当もついていた。
「……最近、クラスで算数の道具なんかがなくなるって聞いたんだけど、速水さんは何か知っている?」
「………」
(……やっぱり)
…ここ一週間くらいの出来事だけれど。
うちのクラスでちょっとした盗難事件が起こっていた。
盗られたのは、消しゴム、鉛筆、それに算数で使うコンパスや分度器など。
被害者は男子だったり女子だったりまちまちなのだけれど、今のところうちのクラスでしか起きていない。
だから、みんな密かにクラスメイトを疑っているのだ。
――うちのクラスには
いかにも、そういうことを『しそう』な人がいるからかもしれない。
「……すみません、わかりません。でも、早くみんなの持ち物が戻ってきてほしいです」
私は神妙な顔を作り、当たり障りのない答えを返す。
担任は拍子抜けしたようにも安心したようにも見える笑顔を浮かべた。
「……そうね。早く解決するといいわね。
どうしてこんなことするのか。……でも、盗んだ人にもきっと事情があるのかもね」
「………」
担任の言葉は、明らかに特定の犯人を思い浮かべてのものだった。
そしてそれが誰であるか、私にはすぐにわかった。
私も、おそらくクラスメイトたちも、同じように疑っている人だから。
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