消しゴム

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担任との話を終え、教室に戻った私は、クラスメイトと話を特にすることもなく、自分の席に戻る。 休み時間の騒がしさが少し耳に障ったが、気にせず次の授業の用意を始めた。 (…次は算数) そういえば盗られたものには、コンパスや分度器など算数で使うものが多い。 だから担任もさっきその話を持ち出したのだろうか。 ……算数の時間、みんな嫌でも盗難のことを意識するから。 (……あれ) 授業の用意を続けていた私は、ある違和感に気づいた。 私のペンケース。 布で出来たファスナータイプのそれだが、少し開いていたのだ。 「…………」 私は何でもきっちりしないと気がすまないので、うっかり閉め忘れることなどほとんどない。 それに、机の中に入っていたのだが、その位置も私が入れたときと変わっている気がした。 (……もしかして) じわり…と、暗い疑念が沸き起こる。 心臓の鼓動が少し早くなっているのがわかった。 ドクドク暴れる胸にせっつかれるようにペンケースを開け、中を確認する。 「………あ」 思わず声がもれた。 ペンケースの中、不自然にぽっかり開いたスペース。 そこにあったはずのものがない。 (………消しゴム、盗られた) そう思った瞬間 私の目は、無意識に窓際のとある席ヘと向いていた。
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