消しゴム

7/10
前へ
/58ページ
次へ
(……だけど、どうしたものか) 自分の消しゴムまで盗られてしまった以上、この件を流してしまうのは出来そうにない。 なんとか解決し、担任の信用も消しゴムも手に入れたい。 でも、浪江くんに真っ正面から『消しゴム盗っただろう、返してくれ』なんて言って、上手くいくとは到底思えなかった。 (うーん……) 出来れば穏便に、そしてスムーズに終わらせたい。 考えろ。私ならきっと出来るはず。 だって 今まで上手くやってきたんだもん。 ……でもいい考えが出来ないままチャイムがなり、算数の授業が始まった。 「……はーい、では今日はー…」 担任が授業を進行するも、どこかざわついている教室。 一部の男子が集中せず、ふざけておしゃべりをしているからだ。 「……みんなー、ちゃーんと聞いてください。今から大切なところを教えますよー」 担任はひきつった顔で注意するが、男子は全く意に介さない。 それどころかクスクス笑い声をたてる始末だ。 「……だってさー、せんせー? おれの分度器ないんだもーん。盗まれちゃってさー」 「それは… 代わりのものを渡したでしょう?」 「でも使うの怖いじゃん。また盗まれるかもよー。犯人捕まってないしー」 男子はそう言って、浪江くんの方を見た。 視線に気づいた彼は『あ?』と低い声でつぶやくと、机をガタンと蹴りあげる。 「……っ」 ことなかれ主義の担任がビクッと身をすくませ、教室が緊張感に包まれた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加