消しゴム

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「……あ?」 小さく舌打ちをして、浪江くんが今度は私を睨み付ける。 ……恐いっつーの! でも、だからって退くわけにはいかない。 力一杯の虚勢で、更ににらみ返してやった。 …すると、 「…………」 意外にも浪江くんは軽く目を見張ると、フッとため息をつく。 ピリピリした空気がゆるんだような気がした。 「……せ、先生が注意してるでしょう。今は授業中なの。静かにしなよ……」 「ふん…」 私から目を逸らすと、浪江くんはゆっくり椅子に腰かける。 そして 「……盗んだの、オレじゃねーよ」 そう教室中に響く声でいうと、窓の外へと顔を向けた。 しん…と、静まる教室。 「……も、もちろん。先生もみんなも、浪江くんが盗ったなんて思ってないですよ。生野くんたちも友達をむやみに疑うことを言うのはやめましょう。 さ、じゃあ授業を始めます。教科書の16ページを……」 担任の取り繕うような声で何とか空気はもどり、どこか重い雰囲気の中授業は開始された。 みんな浪江くんの一件を何とか忘れようと、担任の話に集中する。 ふと、気になり浪江くんへと目を向けると。 彼は変わらず窓の外を眺めていた。 窓からの風で、短い髪や少し寒そうな半袖のシャツがささやかにゆれる。 表情は見えないけれど、さっきの痛いほど張りつめた空気はもう感じられなかった。
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