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(浪江くん、自分が盗ったんじゃない……って言ってたけれど……)
本当だろうか?
まあ、あの状況で馬鹿正直に話す人がいるとは思えないけれど。
でも、浪江くんのキツイけれど真っ直ぐな目。
あれが嘘をついている目には思えない。
…なぜかそう思った。そう、思えた。
何となく浪江くんから目を離せず、ぼんやりと見つめる。
その黒い髪を。綺麗なあごのラインを。
特に何か想うわけでなく見つめていた。
すると、
「……!」
突然、浪江くんが私の方を向いた。
…見ていたことがバレた?
思わずサッと顔を背ける。
気まずくなって、わざとらしいくらい手元の教科書を凝視した。
心臓がひどく激しい音をたてている。
…私、何をドキドキしているの。
耳に心臓がつながっているかと思うほど、自分の鼓動がうるさい。
いつもは集中して聞いている授業の声が、全くわからないほどに。
「………」
たえきれなくなって、もう一度浪江くんに目をやる。
「……っ!」
すると、彼も私の方を見ていた。
睨んでいるのかと思ったけれど、多分違う。
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに。
私を、見ていた。
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