消しゴム

10/10
前へ
/58ページ
次へ
(浪江くん、自分が盗ったんじゃない……って言ってたけれど……) 本当だろうか? まあ、あの状況で馬鹿正直に話す人がいるとは思えないけれど。 でも、浪江くんのキツイけれど真っ直ぐな目。 あれが嘘をついている目には思えない。 …なぜかそう思った。そう、思えた。 何となく浪江くんから目を離せず、ぼんやりと見つめる。 その黒い髪を。綺麗なあごのラインを。 特に何か想うわけでなく見つめていた。 すると、 「……!」 突然、浪江くんが私の方を向いた。 …見ていたことがバレた? 思わずサッと顔を背ける。 気まずくなって、わざとらしいくらい手元の教科書を凝視した。 心臓がひどく激しい音をたてている。 …私、何をドキドキしているの。 耳に心臓がつながっているかと思うほど、自分の鼓動がうるさい。 いつもは集中して聞いている授業の声が、全くわからないほどに。 「………」 たえきれなくなって、もう一度浪江くんに目をやる。 「……っ!」 すると、彼も私の方を見ていた。 睨んでいるのかと思ったけれど、多分違う。 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに。 私を、見ていた。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加