走馬灯ジャンパーは回さない

2/6
前へ
/6ページ
次へ
ハッとして眼の焦点を合わせる。 またジャンプしたようだ。 いつかの跳躍感がまだ体に残っている。 「カケル、どうしたのボーとして」 女の甘い声がした。 記憶の糸を手繰り寄せるのを中断して、目の前の現実に焦点を合わせる。 「えっと……どこまで話したっけ?」 ぼくはおどけた口調でマナミを見つめた。 「いやだカケル、また告白するつもりなの」 マナミが頬を染めてしなを作る。その仕草がたまらなく愛おしい。 その表情に既視感を感じて、この時間がいつなのか見当がついた。 「もう1度言うよ。結婚しよう」 ポケットにあった指輪を差しだした。 「はい……喜んで」 ぼくはマナミの手を握る。この温もりを手放さないように。 「ああ、幸せだな」 「人生最高の瞬間ね」 マナミの言葉のとおりだ。だから、この瞬間にジャンプしたのだろう。 ぼくはジャンパーだ。世界一運の悪い男。 きみは自分が運の悪いやつだと感じていないかい? 結局、努力しても何にもならないと。 生まれと才能 > 努力だと、斜に構えていないか。 そんなのまだ序の口さ。ぼくに比べたら月とすっぽんだと断言できる。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加