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ハッとして眼の焦点を合わせる。
またジャンプしたようだ。
いつかの跳躍感がまだ体に残っている。
「カケル、どうしたのボーとして」
女の甘い声がした。
記憶の糸を手繰り寄せるのを中断して、目の前の現実に焦点を合わせる。
「えっと……どこまで話したっけ?」
ぼくはおどけた口調でマナミを見つめた。
「いやだカケル、また告白するつもりなの」
マナミが頬を染めてしなを作る。その仕草がたまらなく愛おしい。
その表情に既視感を感じて、この時間がいつなのか見当がついた。
「もう1度言うよ。結婚しよう」
ポケットにあった指輪を差しだした。
「はい……喜んで」
ぼくはマナミの手を握る。この温もりを手放さないように。
「ああ、幸せだな」
「人生最高の瞬間ね」
マナミの言葉のとおりだ。だから、この瞬間にジャンプしたのだろう。
ぼくはジャンパーだ。世界一運の悪い男。
きみは自分が運の悪いやつだと感じていないかい?
結局、努力しても何にもならないと。
生まれと才能 > 努力だと、斜に構えていないか。
そんなのまだ序の口さ。ぼくに比べたら月とすっぽんだと断言できる。
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