1滴目 Vampire's Legend

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 紅璃はまず駐輪場に入った。奥へ進むにつれだんだんと暗さが増していく。長方形の空間の奥の壁まで進むと、そこに止めてある自転車は暗すぎてそのままでは鍵の形と鍵穴が見えないほどだった。しかし奥まで行っても、駐輪場は至ってよく見る通常の光景であり、気味の悪い感覚を与えるようなものはない。紅璃は駐輪場を出る。  次に紅璃は、その少し向こうの駐車場に向かった。  そして中に入ろうと駐車場の方を向いたとき、そのとき紅璃は、得体のしれぬ奇妙な気配を感じた。  嫌な胸騒ぎがより強くなる。  紅璃はその駐車場に入った。左右を確認しながらゆっくり一歩ずつ進んでいく。駐車場は入って左右に車を止めるスペースがある作りになっているようだ。トランクの方からそのスペースに入れる決まりらしく、左右の車のヘッドがこちらを向いて並んでいる。横に並ぶ車と車の間には、コンクリートの壁があり、それで駐車空間を区切っていた。天井には照明がついており、普通、駐車場や車の使用時には点灯させるのかもしれないと紅璃は思った。駐車場は奥へ進むにつれだんだんと暗さが増していく。  そのとき紅璃は、一番奥の左側と奥から二番目の右側に、車が駐車されていないことに気が付いた。なぜか心臓の鼓動が少し早くなる。  そっと慎重に歩みを進める紅璃は、暗さの増してくる中、何度も辺りを見回しながら、まず手前にあった、奥から二番目の右側の駐車空間を覗き込んだ。けれどもそこにあったのは歩いてきた所より、より暗いじめっとした空間で、不可思議な部分は何も感じられなかった。  紅璃は一度息をつき、胸を撫で下ろすと、再び一番奥を目指して慎重に進み始めた。暗がりの中、前後左右を確認しながら、一番奥に行くと、左側の駐車空間を覗き込む。  そこで紅璃は、小さく悲鳴をあげた。  なぜならその駐車空間には、何かがいたからである。それが何かはまだわかっていないが、明らかに前の駐車されていなかった空間では感じられなかった、存在感みたいなものがそこにはあった。  正体のわからなかった紅璃は、一歩、その空間に足を踏み入れた。  二歩、三歩と、その空間内に存在しているものに近づいていく。
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