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すると、その空間を占めているものが徐々に輪郭を現し始めた。手前から奥に向かって細長く、真ん中より少し手前のところから二つに枝分かれしていた。猫や犬といったような動物ではなさそうだ。生命が感じられない。
息を押し殺しもう二歩ほど歩み寄る。そこでうっすらとしていた輪郭がさらに露わになった。一番近くに見えているものが、人間の足の裏であることがわかった。それと同時に枝分かれしていたものが人間の足であったこと、横たわっているものが人間であることを紅璃は理解した。
しかしそれと同時に、なぜ人間の足の裏だとわかったのか。いや、どうして屋外であるはずの駐車場で、人間の足の裏が見えたのか。その違和感を直感的に感じた紅璃は、血相を変え駐車所の入り口に戻ると、照明のスイッチを探して点灯させた。電気がつき始めているのを確認してから駆け足で一番奥の左側の駐車空間に走って戻り、中を覗き込む。
そのときに紅璃の見た光景は、非常に惨烈なものだった。
青白い足。青白い指。青白い手。青白い体。そして車止めのコンクリートブロックに乗せられた青白い顔。瞳は焦点の定まらぬままで固まっており、光を失っていた。口は力尽き果てたかのだらしなく開いており、その口角から血液の混じった唾液を垂らしている。
全てを見せつけるかのように一糸まとわぬ姿で仰向けに倒れている女性。その上にはまるでバケツをひっくり返したのかと思うほどの、おびただしい量の血液が滴っていた。
青白い体の上で激しく主張する凄まじい量の紅。まさに目も当てられないほどの悲惨で惨烈な光景。
しかし紅璃が青ざめた理由は、その悲惨な光景のせいだけではなかった。
「ま、ま、ま、…………真紀っ!」
そう、そのあられもない姿になっている者は、大学生活でいつも一緒に行動していた紅璃の親友、真紀だった。
血液を失い青白くなった真紀の体とその上に大量にかけられた真っ赤でどす黒い血液が、その倒れている者の死と、その異常性を明らかに物語っていた。
最初眼下に広がるあまりの現実離れしたその映像に、何がどうなっているのか全く認識できなかった紅璃は、しかし徐々に状況を飲み込むと、その光景の怖ろしさに喉の持つ限り悲鳴を上げた。
そしてひとしきり叫んだ紅璃は、目の前が真っ暗になった。
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