1滴目 Vampire's Legend

4/11

33人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 紅璃はアスファルトの道を駆ける風を感じ、自分の体を震わせた。ブロックの囲いの上に置いていた、少し赤めの焦げ茶色の、味のあるショルダーバッグと、目の前のコンビニで買った飲みかけのコーヒーカップを手に取ると、バッグを肩にかけた。真紀の方を向く。 「そろそろ帰ろ。明日出す課題まだ出来てないし」  真紀は柔らかい笑みを浮かべると、彼女もブロックの囲いから腰を浮かせた。 「そうだね、帰ろっか」  2人は横に並ぶと、日が落ちてからの気温の低さに身を縮こませつつも、帰路を歩みながら、また雑談を始める。  コンビニに入ったときはまだ青かった空が、今ではもう夕日すらもビルや住居の並ぶ地平線に隠れ始め、暗さが目立ち始めていた。街灯に光が灯り始めている。  この2人が大学の帰り際に、途中にあるコンビニに寄って些細なものを買い、その近くにあるマンションのブロック積み花壇の囲いにもたれ、その日の太陽の光と風を身に浴びせながら、日が暮れるまで話し込むというのは、いつものことであった。  さりげない、だけどささいな幸せを感じる、そんな毎日。そんな日常。そんな大学生活。  そんな幸せな日常が、今日を介して突如終わりを迎えるということを、この時の紅璃はまだ、知る由もなかった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加