1滴目 Vampire's Legend

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  〇〇〇  チョークの音と小声が交わる教室内に、雑に扉の開かれる音が響いた。  黒髪のところどころに白髪を覗かせる眼鏡講師が、チョークの持った手を止め、肩越しに扉の方を睨む。  息を弾ませた紅璃は、教壇の上でピリつく講師に申し訳ないと会釈する。迷惑にならぬよう体を縮こませながら、中央やや右側の男女が固まって座っている席に近づき、茶色のコートを脱いでその一席に腰を下ろした。  前の席に座る茶髪でカチューシャをつけた女の子、安田結 (やすだ ゆい)が振り返り声をかける。 「もう紅璃、来んの遅すぎ。遅刻は間に合った?」  紅璃はコートを畳みながら、荒れた息を抑えつつ返事をした。 「うん、なんとか間に合った。あと一分遅れてたら欠席」  結はやれやれとため息をつく。 「でも、今日も欠席ギリギリの遅刻じゃない。最近はそんなことなかったのに」 「最近は来るとき真紀と待ち合わせしてたから」 「そうなんだ。家が近いだけあって、2人相変わらず仲いいね」 「まぁね。あ、そういえば、真紀今日来てる? こっち来なかったの。LINEも既読つかないし」 「う~ん、この教室では見てないかなぁ?」  結は辺りを見渡しながら答えた。  それに合わせて結の左隣、一つ飛ばして二つ目の席に座っていた、金髪から少し髪が伸び、プリン頭になっている男子、多田忠幸(おおた ただゆき)が板書を中断し、振り向いて紅璃に答える。 「俺も。この講義始まる前に食堂いたけど、真紀は今日見てねぇよ」  それを聞いて結が頷く。 「だよね? あ、ちょっと待って。……ねぇねぇ」  結は席から身を乗り出すと、左斜め前に座っていた、黒のショートヘア、トゲトゲした髪型をした太眉の男子、小野勇生(おの ゆうせい)の肩を叩き、振り向く彼に尋ねる。 「勇生は今日、真紀見た?」
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