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勇生は興味なさげに、眉を寄せた。
「……見てない。図書館で寝てたから」
そう言って勇生は前を向き、遠い目をしながら黒板に書かれた文字を板書する。
結は紅璃の方に向き直った。軽い声色で意見を述べる。
「だってさ。きっと真紀、今日はうっかり寝坊でもしちゃったんじゃない? または寝ている間にスマホの充電忘れたのかも」
「そうかなぁ?」
紅璃の中では、真紀は律儀という言葉が一番似合うほど真面目でちゃんとした印象だった。去年真紀が講義を休んだのは二回あるかないか、毎講義ごと行う板書に加え予習・復習まで行っていた。提出物も期限内に必ず、それも提出寸前で二度ほど添削し確認してから提出するような用心深さで、講義に遅刻なんてもってのほか。それこそ、連絡なしで人との待ち合わせをすっぽかすような性格の人間ではなかった。
どうしたんだろう?
紅璃が疑問に感じていると、忠幸が紅璃に話しかけた。
「ところでさぁ、いきなりなんだけど。紅璃は吸血鬼って、信じる?」
「きゅ、吸血鬼?」
紅璃は唐突な質問に素っ頓狂な声を挙げる。忠幸は自慢げに話し始めた。
「そう、吸血鬼。ドラキュラのこと。この間の都市伝説解明番組でもやってたじゃん。
『信じるか信じないかは、あなた次第です』って」
その話に、結が食いつく。
「私も番組見た。吸血鬼伝説発祥の地ルーマニアで、空の棺桶とかいくつも見つかったって」
忠幸が上機嫌で頷いた。
「そうそう。そのドラキュラの話なんだけど、それがなんと四日前に兵庫県で、アパートの空き部屋で全身血だらけの遺体が発見されたんだ。死因は出血多量らしいんだけど、そんな出血するほどの大きな外傷、腹部には見当たらなかったんだってさ。ニュースになってた」
紅璃と結が感心したように相槌を打つ。忠幸は興奮して前に来ると、声量を落として続けた。
「俺さ、実はそれ、犯人はドラキュラじゃないかって考えててさ。首にこうガブって噛みついて血を吸いだしたなら、その噛んだ首筋に小さな傷が二つできて終わりじゃん」
紅璃と結は顔を見合わせ、軽く噴き出した。
忠幸が苦笑いを浮かべる。
「別に、本当に心の底から思って言ってるわけじゃねぇよ。ただ、その可能性も一概には否定できないじゃん? って話で。そう考えるとロマンあるじゃん」
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