1滴目 Vampire's Legend

8/11
前へ
/40ページ
次へ
 そこで忠平は紅璃に顔を近づける。紅璃は少し体を引いた。 「案外、真紀も今頃、その吸血鬼にやられてたりして」  笑みを浮かべそう言う忠幸。紅璃はその光景を思い浮かべ、少し寒気がした。 「や、やめて。そんな漫画みたいなこと、あるわけないでしょ」  そのとき、激しい音と共に教室の扉が荒々しく開かれた。雑談やスマホ操作、板書をしていた生徒や、文章を書き終えた講師が、一斉に教室の出入り口を注視する。  紅璃は、遅れて来た人が真紀ではないかと半分期待して振り返った。 「あっ……すいませ~ん」  入ってきたのは、金髪で二つ結びの巻き髪ツインテールをした、紅璃たちの仲間の一人、山下佳世(やました かよ)だった。  佳世はみんなの注目を浴び、申し訳なさそうにすると、体を小さくしてそそくさと紅璃たちの席へやってきた。  結が呆れかえる。 「私たちのグループ、こんなに遅刻が多いなんて……もう~全く、みんなたるんでるわねぇ」 「わたしのは遅刻じゃないです~。元々遅刻する予定だったから予定通りなんです~」  紅璃は一つ奥の席に詰め、その空いた席に佳世が、脱いだジャケットを背にかけながら座った。そして結に話しかける。 「結、代わりに出席してくれてありがとう。私と伸明の学生証、預かるわ」 「……はいはい」  結が前を向くと、スマホケースのポケットから、佳世と伸明の学生証を取り出した。佳世が身を乗り出して受け取る。  そこで講師が講義を中断した。こちらのグループの辺りを持っているチョークで指す。 「私の講義を何度も中断させるんじゃない! そして私語したいなら廊下でやりなさい!」  その指摘を受けて、紅璃たちは視線を送り合うとおどけた表情で肩をすくめた。  これ以上目立つのも忍びないので、みんな黒板の方を向き、板書したり配布されたプリントに目をやり始める。  紅璃は連絡の来ない真紀のことが心配になり、机の下で再度真紀にLINEを送った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加