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そこで忠平は紅璃に顔を近づける。紅璃は少し体を引いた。
「案外、真紀も今頃、その吸血鬼にやられてたりして」
笑みを浮かべそう言う忠幸。紅璃はその光景を思い浮かべ、少し寒気がした。
「や、やめて。そんな漫画みたいなこと、あるわけないでしょ」
そのとき、激しい音と共に教室の扉が荒々しく開かれた。雑談やスマホ操作、板書をしていた生徒や、文章を書き終えた講師が、一斉に教室の出入り口を注視する。
紅璃は、遅れて来た人が真紀ではないかと半分期待して振り返った。
「あっ……すいませ~ん」
入ってきたのは、金髪で二つ結びの巻き髪ツインテールをした、紅璃たちの仲間の一人、山下佳世(やました かよ)だった。
佳世はみんなの注目を浴び、申し訳なさそうにすると、体を小さくしてそそくさと紅璃たちの席へやってきた。
結が呆れかえる。
「私たちのグループ、こんなに遅刻が多いなんて……もう~全く、みんなたるんでるわねぇ」
「わたしのは遅刻じゃないです~。元々遅刻する予定だったから予定通りなんです~」
紅璃は一つ奥の席に詰め、その空いた席に佳世が、脱いだジャケットを背にかけながら座った。そして結に話しかける。
「結、代わりに出席してくれてありがとう。私と伸明の学生証、預かるわ」
「……はいはい」
結が前を向くと、スマホケースのポケットから、佳世と伸明の学生証を取り出した。佳世が身を乗り出して受け取る。
そこで講師が講義を中断した。こちらのグループの辺りを持っているチョークで指す。
「私の講義を何度も中断させるんじゃない! そして私語したいなら廊下でやりなさい!」
その指摘を受けて、紅璃たちは視線を送り合うとおどけた表情で肩をすくめた。
これ以上目立つのも忍びないので、みんな黒板の方を向き、板書したり配布されたプリントに目をやり始める。
紅璃は連絡の来ない真紀のことが心配になり、机の下で再度真紀にLINEを送った。
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