1滴目 Vampire's Legend

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  〇〇〇  スタスタとの帰路を歩いていた紅璃は、ため息とともに文句をこぼした。 「もう、なんで真紀来ないの。LINEも何回も送ったのに全然反応ないし……」  前方からの自転車に気を付けつつ、真紀からの通知の来ないスマホ画面を眺めて、紅璃は再度ため息をつく。 「ギリギリまで待ってたから二限の講義ちょっと遅刻したじゃない。もうあの講義遅刻できないのに。もう、次会ったら絶対文句言ってやる」  歩くスピードはそのままに、いつもは真紀と寄るコンビニの横を通り過ぎた。その後もたれかけて会話するブロック積み花壇の囲いのあるマンションの前も横切る。  そのとき、紅璃は何とも言えぬ嫌な胸騒ぎに襲われた。心に靄がかかるような、気味の悪い感覚であった。   紅璃は足を止め、マンションの方を見る。マンションは両開きの大きなガラスのはめ込まれた扉が開いており、それはまさに紅璃を招いているようであった。  紅璃は意を決して、そのマンションに足を踏み入れた。不法侵入の罪悪感をひしひし感じながら、紅璃は中を覗き込む。  しかし、中は数字ボタン式のインターホンシステムがついた自動の両開きドアとなっており、暗証番号などがわからない限り、先には進めなかった。仕方なくその辺りを見渡したがそこには胸騒ぎの正体となりそうなものはない。  気のせい? しかし気味の悪い胸騒ぎは未だ拭えない。  紅璃はマンションの入り口スペースから出ると、ツツジやサツキが植えられている花壇を、目を凝らしながら沿って歩き始めた。たびたび猫除けの黒いプラスチックのトゲが敷いてあったり、小石が入っていたり、誰かが捨てた空のペットボトルなどがあったが、そこにも違和感の正体はない。  すると花壇沿いに歩いていた紅璃は、入り口から少しそれたところにそのマンションの駐輪場、さらにもう少し向こうに駐車場があるのを発見した。駐輪場はマンションをくりぬいたように作られており、入って右側に横一列で自転車を止めるスペースがあった。駐車場も同じく、マンションをくりぬいたような作りになっており、遠くから車が止めてあるのが見える。
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