第1話 酔狂

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「その少年は、少し興奮気味に車の助手席に乗り込むんだ。初めてのヒッチハイクで、なおかつ初めて止まってくれた車だからね。達成感と感謝の気持ちでいっぱいさ」 塚本は、ゆっくりと穏やかに、まるで詩を朗読するかのように女に語った。 「どこにでもあるような国産の白いセダン。運転手は20歳くらいの学生風の男。丁度、俺くらいのね。 少年には警戒心なんか無い。今にも雨が降りだしそうな国道で立ちつくしていた少年にとって、その男は救いの神だったわけ」 大学構内にあるラウンジには、5月半ばの程良い自然光が溢れている。 10人ほどの学生がそれぞれ雑談に興じていたが、中央のテーブルに座る男女2人の会話を聞く者は、誰もいなかった。 「その少年は運転手の男に『ヒッチハイクでどこまで行けるか、賭けをしてるんです』と、ハイテンションで言うんだ。親には、裏山に友達とキャンプに行くんだと、嘘をついて出てきたらしい」 「やりそうね。男の子って、馬鹿だから」 茶色に染めた髪を指先にクルクル絡めながら、女は言った。けれど、どこか興味無さげだ。 塚本は、話を続けた。
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