episode1

5/11
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「篠原さん?どうしたの、ぼーっとして。まだclose作業終わってないよ?」 「あ、すみません。ちょっと気が抜けちゃって」 先輩バーテンダーである橘は、少し心配そうな表情で此方を覗いた。 「今日は少し忙しかったからね、大丈夫?何か一杯作ってあげるよ」 そう言い、カウンターの中へ戻って行く。 柔らかい手つきで素早く準備を始めると、 シェーカーに次々と飲材を入れてゆく。 その仕草の一つ一つに品があり、 綺麗な手でシェーカーを振る姿は、かなり様になっている。 流れる様な動作に視線を奪われ、目が離せない。 端正な顔立ちと、柔らかい口調、年齢は26と若いが それは1人の完成されたバーテンダーの様に思える。 スッと差し出されたカクテルグラスには、白い乳白色の液体が満たされて バックバーの明かりで砕けた氷のかけらがキラッと光った。 「はい、お待たせ。……ホワイトレディでございます。」 口に含むとジンが舌を刺激し、レモンの香りが鼻から抜けて、ぼーっとしていた頭が少しスッキリとした。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!