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「あぁ、もう俺達も帰ろうとしてたからいいぞ」
昔の常連客は、不思議そうな顔をして荷物を受け取った。
「…おまたせ」
リアンは外で待っていたマドルスに向かい、作り笑顔を見せた。
「…じゃあ行こうか…学校には転校する事を、明日電話しといてやるからな」
「…うん」
リアンは思い出のいっぱい詰まった酒場を振り返り、見詰める。
涙を堪えるのが辛かった。
そしてリアンは、ゆっくりと歩き出したマドルスの後を、静かに付けて行った。
それから二人が次に辿り着いたのは、小高い丘の上。
すっかり茜色に染まり切った空の元、フェルド達夫婦が眠る墓の前で、二人目は手を合わせる。
リアンは両親と会話をしているのだろう。
いつまでも目を閉じ、両手を合わせ続けている。
「…リアン」
小さな肩を、温もりのある、その大きな手で包まれた。
ようやく目を開いたリアンの目には、うっすらと滲むものがあった。
その涙をマドルスは指先で拭うと、リアンの手を引き、駅へと向かった。
駅には既に、蒸気を上げている汽車が停まっていた。
夜に染まり始めた空と同化して見える汽車の中に、二人の姿は消えて行く。
そして間もなくして、白い蒸気を上げていた汽車は、どこか物悲しい汽笛を上げ、走り出した。
慣れ親しんだ風景が、車窓から消えて行く。
その姿を涙を堪え、リアンは見詰め続けた。
マドルスもまた、そんなリアンを見詰め続けた。
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