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「これは炎の短剣、森を抜ける行商人から戴いたの」
ヒルダは不敵な笑みを浮かべながら、深紅の石がはめ込まれた短剣を振り回して見せた。
「まぁ、あたしが使っても大した攻撃も出来ない普通の短剣よ。でもステータスが戦士なら話が別、剣先から炎が伸びて相手を攻撃出来るの」
「ほほ~ぅ」
「ここからが肝心。この先に小さな洞窟があって、その奥でミニドラゴンがお宝をため込んでるわ。あんたとあたしでパーティーを組んで、それを頂こうってわけ」
「僕が炎の短剣を使えば、そのミニドラゴンを倒せるってこと?」
「あんた馬鹿ぁ? そんなの無理に決まってるじゃん」
「じゃぁ、どうすんのよ?」
「よく聞いて。洞窟の途中にいる化け物だってまぁまぁ強いの。あたしの攻撃力じゃ倒せない奴もいるわ。でもあんたが炎の短剣を使えば何とか倒せる可能性がある。それでうまいことミニドラゴンまで辿り着けたら、あたしがお宝を盗む。盗賊レベル16ならそれが可能なはずなのよ」
「う~ん、なるほど。でも途中の化け物に勝てるかなぁ……」
「大丈夫。もしもあんたが倒されたら、あたしは竜の羽ってアイテムを持ってるから、それを使ってすぐさま地上まで戻れるの」
「僕は?」
「姫を守れない男なんて、生きてる価値が無いわ」
「誰が姫ですかぁ、盗賊でしょ!」
「まぁいいじゃない、ここで身ぐるみ剥がされたって、森で死ぬだけなんだから」
「そうなのかなぁ……」
「あんたが洞窟の途中で傷ついても、あたしが持ってる薬草は全部使わせてあげるからさ」
「おやっ、優しいですね」
「そうでしょう。炎の短剣だって貸してあげるんだし、お宝だって山分けよ。あんたの仕事はお姫様を守ること。あたしが居なきゃお宝をゲット出来ないんだから、決して悪い話じゃないはずよ」
ヒルダはそう言いながら、僕のほっぺたを軽くつねった。
確かに悪い話じゃないのかもしれない。可愛い女の子と冒険なんて楽しそうだし、ヒルダが発する上から目線の言動も嫌いではないのだ。
どうせ目的も無く森を彷徨ってただけなんだし、これはもう二択と言うより一択だ。
「よし、その仕事引き受けた」
僕は力強く、そう宣言した。
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