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気づくと僕は暗い森の中に居た。
巨大な木の枝は折り重なり、わずかな日の光しか地上に届かない。
体を少し動かすと、足元でカチリと音がする。腰に携えた剣が、鉄のすねあてに触れたのだ。僕は鎧を身にまとって、中世ヨーロッパの騎士みたいな恰好をしていた。
「おやおや、勇者か何かになっちゃったってこと?」そう独り言をつぶやきながら、どうしたものかと考える。
とりあえず剣を抜いてみた。
するとその瞬間、森のどこかで獣が雄たけびを上げる。
熱帯雨林に住む鳥の鳴き声みたいにも聞こえる。あるいはこの異世界には、地球ではお目にかかれない化け物が居るのかもしれない。
僕は剣を握ったまま森の探索を始めた。ギラリと銀色に光る剣は、傷一つ無い新品で、右手一本で持てるが、片手で振り回すにはちょっと重すぎる感じだ。
しばらく歩くと森はジメジメした雰囲気になり、不快な汗がダラダラと流れる。
「この鎧、重すぎる。それに僕はどうしたらいいわけ? 声さん聞いてるの?」
返事は無い。
白い世界の穴に吸い込まれて、僕はここに落ちて来たわけだけど、白い世界の声さんは、落ちた後は話しかけてこないようだ……
自分がどんな状況でこの森に居るのか分からないので、やみくもに歩く以外に出来ることがない。しかしなんだか同じ場所をグルグル歩いてるような気がして、いいかげん馬鹿らしくなってきた頃、唐突に化け物が現れる。
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