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珍しく定時に帰ることが出来た俺は、たまには散歩がてら遠回りでもしようと、景色のいい土手を歩いた。
空は赤みがさしているとはいえ、まだ明るい。
川辺につくられたグランドでは中学生ぐらいの子供が野球をしているし、その周りをランニングする者もいれば、少し離れた所で見守っている親御さんたちもいる。
一旦、足を止め、周りを見渡す。
川面に反射する夕日のオレンジ色の光がキラキラと輝き、道端に咲く名もなき小さな花は風によって可憐に揺れる。
「残業、残業で、こんな風に人のふれあいを見る事もなければ、自然を身近に感じる余裕もなかったもんな」
フッと口元を緩め、再び、足を踏み出した瞬間、「あぶないっ!」という、切羽詰まったような声が鼓膜を突き刺した。
ビクリと肩を揺らし、その場に立ち止まると、ヒュンッと音をたてて、物凄いスピードで何かが鼻先を掠め、横切った。
一瞬のことで何がなんだか分からないが、あまりにもギリギリのところで助かったということだけは冷静に理解が出来た。
少しの間、息をするのも忘れ、心臓だけがバクバクいう。
そんな俺の背後から、「大丈夫ですか?」と、若い女性が声をかけてきた。
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