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「誇りを持ってるって言うんならさー、もうちょい優しくなれない?白衣の天使って、あれ嘘なの?」
「…はっ?」
イラッときた。
何言ってんのこいつ?ふざけてんの?
ああ、ダメだ。この何とも言えない不完全燃焼感。
もっと言ってやらないと気が済まない。
…でも、感情に身を任せてしまうのは私の悪いところだ。
この人はこういう人。
私がこれから関わっていくことのない人。
今我慢すれば、「あのときはあんなこと言われたなぁ」なんて程度の思い出で終わる。
そう言い聞かせ、私は「もう帰ります」と言った。
「ちょっと待ってよ」
しかし矢内さんは、私の手首を強引に掴んだ。
「いた…っ」
……なんなの?
私、何か悪いことしたの?
なんで私の周りにはこんなろくでもない男ばかりなの。
溜まりに溜まっていたものが、爆発した。
元彼の浮気騒動のときだって、怒らなかった。
でも、もう言わずにはいられなかった。
「あのさぁ……あんたに看護師の何が分かんの?
知りもしないくせに憶測で白衣の天使とかぬかさないでくんない?こっちだってねぇ、毎日患者のオムツ換えてシモ洗って、うんこにまみれて働いてんのよ。
あんたにビッチだなんて言われる筋合いないっての」
「は…?」
「私がいいカモに見えたかもしんないけどね、これでも一応恋愛経験はあるの。しかもあんたと同等レベルに終わってる男と関わったこともね。
だからあんたみたいな男に二度も引っかからないわよ。ビッチに会いたけりゃ、そういう店に行けばいい。何なら出会い系でもしてみれば?あんたみたいなヤリチンにはお似合いね!」
私は吐き捨てるように言うと、全力でタクシーに走った。
ポカンとしていた矢内さんは我に返り、「おい!待てよ!」と追いかけてくる。
でも残念。私の方がスタートダッシュ速かったんだから。
タクシーに乗り込み、「早く出して!お願いします!」と言う。
運転手さんは戸惑ったように「え?え?」と言っていたが、追いかけてくる矢内さんを見てすぐに車を出してくれた。
「…はあ、はあ……ありがとうございます」
「い…いえ……あの、お客さん…大丈夫ですか?」
運転手さんは心配そうに鏡越しに私を見てくる。
「はい……なんとか…」
久しぶりに全速力で走ったから息が荒い。
でも、ちょっとスッキリしたかも。
私は街のネオンの灯りを見ながら、ざまぁみろ、と呟いた。
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