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『…君、席ないの?』
『え』
『俺の隣で悪いけど…ここなら空いてるよ』
図書室で勉強しようと思って来たは良かったものの、さすがに試験前だけあってどのテーブルも埋まっている。
これは諦めるしかないか、と思っていたとき。
ネクタイの色から、3年生であることが分かる男の人。
優しそうに笑って、私の方を見ている。
『えっと…いいんですか?』
『もちろん』
『じゃあ…お言葉に甘えて。ありがとうございます…』
先輩の隣に座って、勉強道具を広げる。
もともと人見知りで、しかも目上の人で…緊張するなぁ。
でもせっかく声かけてくれたんだし、厚意を無碍にするのも気が引ける。
そう思っていると、『あ、これ』と隣の先輩が話しかけてきた。
『おかむーの授業でしょ、これ』
おかむーとは、世界史を担当している岡村先生のことだ。
私が広げたノートを指差している。
『あ…はい』
『懐かしー。この板書、特徴あるよね。すぐに分かったよ』
『それ、思います。あと、口癖も…』
『最後の砦、いってみよう!だろ?』
『そう、それです!』
つい大きい声を出してしまい、ハッとして口をつぐむ。
先輩はクスクス笑った。
『生徒順番に当てていくけど、みんな答え分からなくてさ。最後に当てる生徒にはそれ言うんだよね。すっげープレッシャー』
『そうなんですよ。私まさに今日、最後の砦で…』
『そりゃ災難だったね』
いつの間にか、緊張が溶けて先輩と談笑していた。
私が緊張しているのが分かって、声をかけてくれたのだろうか。
先輩の優しそうな笑顔と、穏やかな声にこちらも落ち着いてくる。
『…おっと、みんな勉強してるからあまり話さない方がいいね』
『あ…そうですね。ごめんなさい』
『ううん、俺の方こそ。眠くなってきてたから眠気覚ましになったよ。ありがとう』
ありがとうなんて、全然言われる筋合いないのに。むしろ私がお礼を言う側なのに。
優しい人なんだなぁ…
そんな第一印象だった。
ピピピッ、ピピピッ…
「ん…」
アラームの音で、うっすらと意識が浮上する。
アラームを止めようとスマホを手にして画面を見ると、LINEが来ているのに気づいた。
「…カズくんから…」
元彼の名前。
そういえばさっき、元彼と初めて会ったときの夢を見ていた気がする。
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