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彼女はいつになく真剣だった。
君と命の重さについて話をするとは思わなかった、と伝えると、彼女は少し恥ずかしそうに顔を歪めた。
しかし、彼女の言う通りだと思った。
気付かないだけで、今最後の会話をしているのかもしれない。
最後の食事かもしれない。
当時の僕の考えは、彼女の言葉で簡単にひっくり返されたのだ。
でも、今なら彼女に言い返すだろう。
"やっぱり命の価値にも差がある"と。
例えば僕が死んだのと、世界を跨ぐミュージシャンが死んだのとではまるっきり状況が違う。
命の価値というのはいつ死ぬのか、残りの人生がどれだけあるのかではない。
誰とどう過ごして、どんな話をして、何をしたのか。
人をどれだけ泣かせ、どれだけ笑わせたのか。
その人の命の価値なんて、残された人が決めるものだ。
それをもしも彼女に言ったら、彼女はなんて言っただろうか。
それでも命は平等にあると、納得できる答えをくれただろうか。
さて、話を戻すとしよう。
当時の僕は、とにかく彼女を不思議に思った。
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