ナイフに口付けを

殺害依頼

「まァ、望めるのなら寿命を全うしてから死にたいよね。」

「……ま、誰だってそうよね。そんなもんよ。」

彼女はつまらなさそうに言った。
つまらない人間だと言われているようで、不快感を覚えた。

誰だって寿命を全うしたいと思うものでは無いのだろうか。

いや、自ら命を絶つ人が多いこのご時世に何を言うという感じなのだが、一般的に考えて普通は寿命を全うしたいと思うはずなのだ。

人間も動物である。
そもそも動物は、生に対して執着しなければならない。
"生きたい"と思うのは、本能である。

しかしそれでも自ら命を絶つ者がいる。
苦しいから、痛いから、辛いから、悲しいから。

「そういう星野さんはどうなの？」

人間はなんて複雑で難しい生き物なのだろう。
もしも世の中の動物達が人間と共通の言葉を持ったのなら、人間を何と言うのだろう。

人間の感情が、生きたいという本能を忘れさせてしまう。
人間の頭は進化しすぎたのだろうか。

「私は…………君に、殺されたいなぁ。」

手紙の中の、"殺しに来て"の文字を思い出す。

楽しそうに笑う彼女は、進化しすぎた結果なのだろうか。