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「城崎くん」
蒸しかえるような暑さ。季節は夏であった。
蝉の声に混じって、僕の名前を呼んだ声があった。
その声の主が我が校のマドンナであったことに驚きはしたものの、自分が図書委員であったことを思い出し、一人納得していた。
「……本の貸し借りなら、僕じゃなくて先生に。」
眼鏡越しに見る彼女の肌は汗ばんでいて、何か見てはいけないものを見てしまったような気分になった。
僕は目を逸らしながら、少し掠れた声で返事をした。
「ううん、私は君に用があって来たの。そうか、城崎くんは図書委員だったね。」
彼女はへらりと、明るく笑った。
誰もが憧れを抱く彼女が何故僕なんかに話をかけ、しかも用があると言い出したのか訳が分からなかった。
同じ教室で過ごす仲とはいえ、挨拶すらした事の無かった仲だった。
「急でごめんね、城崎くんならちゃんと聞いてくれるかなって思って。」
他の人達の下心は見え透いているという事だろうか。僕に下心は無いと考えたのだろうか。
僕がその時どんな顔をしていたのかは分からないが、きっと酷い顔をしていたに違いない。
ただでさえ暑い室内がら余計に暑く感じた。誰かにこの場を見られやしないかと、余計な心配をする余裕はあったが、外野に目を向ける程の余裕はなかった。
しかし彼女はお構い無しに言葉を続ける。
「君は、私のことどう見える?」
彼女に再度目を向けると、変わらず笑顔でそこにいた。
どんな質問が来ても同じだっただろうが、思ってもみなかった質問に言葉が詰まった。
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