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暗闇の中に誰か人が立っている。
自分の他にはこの人物しかいない。
その男は黒いスーツ姿で、自分より少し背が低く、体躯は細身だが歩くのが早い。
自分がだいぶ早く歩いているのに、追いつくどころかどんどん離されていく。
「兄ちゃん!」
声をかけてもちらりと此方を見ただけ。どんどんと前に進んでいく。
「待って・・・・俺も一緒に・・・・」
「俺と来るとろくなことはないぞ」
今度は左側から一人の男が近づいてくる。
「大友・・・・生きてたのか?」
「若・・・・」
「お前も行こう。兄ちゃんに一緒に謝るんだ」
「私は無理です」
「やってみなきゃわからねぇだろ?」
「私は貴方を裏切ったんですよ。組長はお許しになりません」
「お前はどうしようもない状況になってやったんだろ?」
「この世界、裏切り者には『死』しかないんですよ」
「お前は今まで雷門に尽くしてくれていたじゃないか」
「アナタは私のすべてが会長やアナタ方を欺くためと疑わないですか?」
「思わねぇよ。俺にどうやって兄ちゃんを支えたらいいか・・・細かく教えてくれたのはお前じゃねぇか。そのことにウソはねぇ」
「アナタは甘いですよ。そんなんじゃ、これから組長をお支えするのは難しい。雷門は潰れてしまいますよ」
「大友、お前も来い!」
「私は・・・・・こっちでやることがあるので」
「まだまだ教えてもらいたいことがあるんだよ」
「早く行きなさい。組長に追いつかなくなりますよ」
「大友ぉ~!!」
大友の姿はどんどん小さくなる。追いかけようとすると誰かに右腕を掴まれた。
「理玖・・・・戻れ」
「兄ちゃん」
「お前は俺を置いていくつもりか?」
「いや、でも・・・・」
「大友は大丈夫だ」
兄は小さく微笑んで・・・・力強く頷いた。
この人と共に生きると決めたんだ。みんなの前でも、神様の前でも誓ったんだ。
「兄ちゃん」
手を握ると温かだった。
握った手を力強く握り返してくる。ああ、なんて心地いいんだろう。
「兄ちゃん、ずっと一緒だ」
「ああ、ずっとな」
自分を強く引っ張ってくれる力強い手・・・・向こうに光が見えてきた。
暖かくてまぶしい光だ。ずっとこの人とこれからも一緒だ。
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