ナヴァル

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ナヴァル

 悪魔のナヴァルは、器を見つけた。 自分が入るにふさわしい、とても美しい器だ。 そこに宿り、見る者を魅了し、その美しさに触れようとする者の生気を吸い取ることにした。 その器は、丘の上にある、桜の大木。  ナヴァルは春に花を散らし、そして夏の青々とした木々の間にも花を咲かせ、紅葉の隙間を薄桜色で埋め、そして雪の散ると同時に花を散らした。 沢山の人間がナヴァルを一目見ようと訪れ、その花びらを持ち帰り、そしてナヴァルの呪いによって安楽に死んで行く。 その魂はナヴァルの御馳走だ。 ナヴァルの美しさを讃え、死んで行く人間たち。死の枕もとに立つナヴァルを、誰ひとりとして責めたりしない。それどころか、喜んで魂を差し出すのだ。 桜の花の舞う幻覚が、天国へ通じる道だと信じている。 ナヴァルは、人間を魅了する器の中でじっと獲物を待つだけで、簡単に魂を手に入れた。  そうして100年が経った頃、桜の木のすぐそばに孤児院が建った。 子供たちが時々、ナヴァルに触れに来るが、興味は無い。 ナヴァルは子供の魂は嫌いだった。無味無臭で面白くも無いのだ。  ある日、その子供たちと一緒に、一人の青年が来た。 青年は子供たちに、ジアと呼ばれていた。     
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