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宵ねぇ、というのは姉のともだちである。宵、と書いて僕らは「よい」と呼ぶわけなんだけど、実のところ彼女の本名とはかけ離れた名前だ。保育園から高校までずっと同じクラスになるという離れ業を成し遂げた姉と宵ねぇは、二十一歳となったいま、やっと違う道にいる。しかし仲のいい、ということは変わらないわけで、つまり保育園の頃からずっと僕には暴君が二人いる。
宵ねぇは極端な甘党である。砂糖とミルクを大量に黒いコーヒーの中にぶち込んだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとー。ミチは?まだ寝てるの?」
「うん……」
ミチ、と至って気軽に姉の名前を呼べるのは宵ねぇだけ、だった。
「そっかぁ。ミチは今日も仕事?」
「うん……」
僕は気もそぞろに生返事をする。宵ねぇがこうして朝ごはんを食べに来ることはよくあった。姉が宵ねぇと違う大学を選ぶまでは。姉が宵ねぇより一足先に仕事に出るまでは。
「どーしよ、かなぁ。ミチと久しぶりにゆっくり話したかったんだけど。でも寝てるんならしょうがないね。あの子寝起き悪いから。ほら、起こしといでよ。寝坊させちゃったら後が怖いよ」
僕の気を知ってか知らずか宵ねぇはいたって軽く明るくけらけらと笑う。生まれつき色素の薄いミルクティみたいな色の髪と灰色がかった青い目。歌うように節をつけるこの癖のある喋り方。確実に、この存在は宵ねぇだ、と僕は思う。
「ほら、起こしといで」
しかし僕は、約一年前に明るい笑みを浮かべた彼女の遺影が飾っていたお葬式に行ったのを、しっかりと覚えているのであった。
*
今日はお仕事休みでしょなに起こしてるの馬鹿、と姉に盛大に叱られて、今日は祝日だということに気付いた。
「あーれ、ミチは?」
「今日は祝日でしたねぇ……」
「あはは、叱られたんだーっ」
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