朝食にさよならを込めて

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 けらけらと宵ねぇが笑う。姉に宵ねぇが来てるよ、とは言えなかった。宵ねぇのお気に入りのマグカップを一年経っても捨てられない姉に、なんて言えばいいのか。果たして。 「ええと、宵ねぇ」 「今日の朝ごはんなぁに?」 「……オムレツ」 「へー、いいねぇ」  テーブルに頬杖をついて宵ねぇが笑う。なんだかなにも言えなくなったので、僕はキッチンに向かうことにする。オムレツ。作ろう。なにも考えずにただただオムレツを作った。ずいぶんと慣れてしまったんだな、と気付く。 「はい」 「ありがとー、イッキュー君。君の朝ごはんは久しぶりだねぇ。君もコーヒーでも飲んだら?学校休みなんでしょ」 「うん」  緑のカーテン越しに日差しが入ってきていて、リビングはとても明るかった。美味しそうにオムレツをほおばる宵ねぇの色素の薄い髪の毛は記憶のとおりにきらきらとしていて、僕は頬杖をついてそれを眺めた。 「……なぁにそんなに見つめちゃって。照れちゃうよ」 「……宵ねぇも、照れるとかあるんだ」 「それくらいありますぅ」 「なにその口調。変なの」 「そっちこそ」  オムレツの最後の一口を口に放り込んでから、宵ねぇは言う。 「へんてこな敬語がようやっと取れたみたいで」 「……しょーがないでしょ。これ」 「まぁねぇ」  ごちそうさまでした、と手を合わせて、宵ねぇは食器を持ってキッチンへと行った。まぁねぇ、ってなんだそれ。 「そうだイッキュー君」  水の音が響いた。冷めたコーヒーをすする僕に、宵ねぇはキッチンからとても気軽に歌うように言う。 「デートに行こうぜ」
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