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飛行機がゆっくりと滑走路に向かい動き始めた。
ロンドンの景色はもう見納めだと窓の外に目を凝らす。
でも涙なのか霧なのか、視界は霞むばかりだ。
CAのお姉さんがそっと手渡してくれたタオルで目を拭いながらやっと見た景色は、ただアスファルトが広がるだけの、どこの空港にもあるものだった。
それでもここは、特別な場所。
先輩が住む街だから。
機体はゆっくりと誘導路を進み、建物や貨物が小さな窓の外を流れていく。
いつか隣にいられたらと願ってきた年月も。
先輩と同じ街の空気を最後に大きく吸い込んだ。
さよなら、凌介先輩。
もう、これで本当に──
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