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小野寺唯編
冷ややかな金属音とともに鍵を回せば、そこはまだ真っ暗な部屋。
崎田先輩は帰ってきていない。
リビングのソファに膝を抱えて座り、スマホの時刻表示を眺めた。
先輩がどこに行ったかなんて、わかってる。
虚しさを押し殺して膝に顔を埋める。
嫉妬、憎悪、コンプレックス。
あの人の名を知った瞬間から私の恋は醜く形を変えていった。
何が何でも勝って、勝者は私だと見せつけ踏みつけてやりたかった。
それは叶ったはずだった。
でも──。
キッチンの戸棚の奥に残されたもう一つのマグカップ。
バスルームに並べられた女性用のシャンプー。
先輩の机の中にしまってあるウエディングのパンフレット。
部屋のあちこちに残されたあの人の存在は今も消えていない。
もう使うあてもないそれらは今でもあの人を待っている。
どれだけ私のもので埋め尽くしても、それは永久に変わらない。
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